鵠ノ夜[中]
ここに来てすぐに「柊季は飲んじゃだめよ?」と念を押されて、これになった。
こう見えて俺は真面目だから、アルコールを飲むつもりなんて毛頭なかったのだが。
「で、結局要件は?
何もないなら、俺そろそろ帰るけど」
「冷たいわねえ……まったく。
──この間、駅前の大通りで通り魔事件があったの知ってるでしょう?」
「……ああ、割と近くだから報道陣が押し寄せてて邪魔だって、同業者が言ってたけど」
「あれの現行犯で逮捕された犯人、調べておいてほしいのよ。
……噂ではドラッグをやってたらしいけど、最近このあたりで粉を流してる輩がいるみたいなの。それと関係あるのかを探って」
「了解。報酬弾んでよね、おじょーさん」
じゃあね、と。
連れの女とスペースを出ていった情報屋。薄くため息を吐いた彼女が、バンドバッグから取り出したのはいつもの手帳。
何か書き込んでから、またバッグの中へと押し込んだ。
……当たり前だけどこいつ、御陵のお嬢なんだよな。
「シュウ……
今日は、ちょっとこのまま酔ってもいいかしら?」
「……なんかあんのかよ」
いつも他人のことばかり考えていて、自分のことは何も話さないのを知ってるから。
どうせ聞いたって無駄ってことは分かってるけど。濡れた漆黒の瞳をこちらに向けた彼女は、ため息混じりに「そうね……」と呟いたあと。
「欲求不満?」
「はあ……?」
何言ってんだ、まじで。