鵠ノ夜[中]
雪深と胡粋を連れてこなかったのは正直正解だと思うが、だからって俺を選んだのも間違いな気がしてならない。
薄い仕切りの向こうから微かに聞こえる声は、変わらず愛を囁き合ってる。
そんなどうでもいいことを気にしていたら、それに気づいた彼女が俺の意識をくちびるで引き寄せた。
……俺はほかのヤツに比べたら恋愛経験は乏しいけど、なんつーか。
「煽んなよ」
「っ、」
そういうことされたら、すげー燃えるんだよな。
「シュウ……?
まさかさっきの一気飲みで酔った?」
不思議そうに聞いてくるくせに腕はもう俺の首裏にしっかり回してあるんだから、こいつも相当男慣れしてる。
……ま、そうじゃなきゃこんな色気なんか、出ねーか。
「はっ、生憎通常運転だよ」
「どこが……」
不満げに言うくせに、キスに対してはまったくもって不満げじゃなさそうで。
むしろ、そう。……なんか、その表情って。
「ねえ、柊季、もっと……」
恍惚、だ。
ねだる言葉を口にされて、自然と背筋にぞくりとしたものが走る。その衝動に呑まれないように深く口づけて、彼女の下唇を甘く噛んだ。
「っ、」
前に、雪深と胡粋と、別邸の和室で遅くまで話してた時。
何がきっかけだったか、夜な夜なこいつの部屋に通ってるあいつらは、「レイはキスが上手い」みたいな話で盛り上がってたけど。