鵠ノ夜[中]



「まって、」



酔ってるせいでそれも弱っているのか、キスの受け入れ方もやたらと不器用な気がする。

どんどん余裕をなくしていく姿にふっと笑みをこぼし、手首を掴んで散々追い詰めてからくちびるを離すタイミングで首筋を撫でたら、彼女は甘ったるい吐息を吐き出した。



「は、……なんで、手馴れてるの……」



「別に経験なんかねーけどな」



「あなたが一番罪な男じゃない……」



「どうだか」



呼吸を整える彼女が、「帰る」と勢いよく席を立った。

──が、酔っているせいでぐらりと重心が傾き、崩れる彼女をとっさに抱きとめる。




「……ったく」



酔って怪我したなんて洒落になんねえだろ。

しっかりしてるように見えて変なところで抜けてて、なんだかんだ危なっかしい。……そんな風に思うあたり、俺も相当こいつのことを見てるらしい。



「店出て、ちょっと夜風に当たるか」



「………」



「そしたら酔いも冷めんだろ」



何かと俺に迷惑をかけているという自覚はあるらしく、腕の中で彼女はおとなしくうなずいた。

それを一瞥してから彼女を促し、店を出る。



レイが会計を済ませようとしたとき、バーテンは「先ほどのお客様から本日はツケ払いでお願いされてます」と口にした。

どうやらさっきの情報屋。ひねくれたように見えて、一応紳士ではあったらしい。



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