鵠ノ夜[中]
だけどそれを責める気にならないのは、本気で考えているからこそ、そうやって不安になっていることを重々理解しているからで。
つられて深く考えるだけで、負のループに陥るような気がする。
「……んなの、考えるだけ無駄だろ」
「無駄って……」
「確かにあいつらの気持ちは、もしかしたら唐突に冷めたりするかもしんねーし、言ってる通り"ずっと"あんのかもしれねーけど。
そんなの、あいつらにだって結局わかんねーだろ?」
「………」
「気持ちが冷めることが悪いことなわけじゃねーし。
もういっそ、そうなったら「仕方ない」で済ませるぐらいの心意気でいろよ」
こいつが怯えてんのは、何も恋愛感情をなくされることじゃない。
恋愛感情がなくなれば愛されなくなる、という勝手な被害妄想だ。
「小豆さんはお前のこと確かに恋愛対象としてみてる。
……でもそれ以上に、主人であるお前を慕ってる」
「、」
「恋愛感情だけで仕えてきたと思ってんなら大間違いだからな。
……本当にそうなら、あの人がいくら優しかろうととっくに男女の関係になってんだろ」
月明かりが朧ろなせいで、彼女の表情ははっきりと見えない。
僅かな沈黙から意識をそらすように、すこし離れたところにある大通りから聞こえて来る車の音に耳をすませた。
「……柊季は、わたしのこと好き?」
「はっ……なんだその質問」
少しずつ彼女と話すようになって気づいたことがある。
こいつは自分が優位に立っている時だけは、かなり余裕げな態度だ。つまり、自信がなさげな時は、自分が優位ではないことを誰よりも理解してる。