鵠ノ夜[中]
「レイがさすがすぎて俺は困惑してるよ」
「あら、わたしはあなたが予想通りの行動をしてくれてとっても楽しいわよ?」
完全に固まってしまった菓ちゃんを、部屋に置いて。
「すこし出てくるわね」と廊下に出てすぐ、胡粋に捕まった。案の定わたしに彼女を引き離すように言ってきたけど。
もう「わたしが胡粋の彼女」だって言ったことを伝えたら、冒頭のセリフである。
それから、「まあレイが彼女ならあきらめるでしょ」と言った胡粋。
その耳にめずらしくピアスがあることに気づいて伝えたら、彼は「ああ、」とそれに触れた。
「元カノにもらったやつなんだけどね。
菓の顔見たらしまってたの思い出して、つけてみた」
結構気に入ってたピアスだから、と。
そんな理由で、胡粋がわざわざ実家からそのピアスを持ち出すだろうか。基本的に荷物や持ち物を少なく済ませたい、彼が。
「……それで、どうする?
たぶん彼女いるってだけじゃあきらめないでしょ、菓は」
「でしょうね。
だからタイミングを見計らって、見せつければいいのよ。確認したけど菓ちゃん、"襲われる"って言葉の意味わかってなかったから」
「……なにそれ、俺めでたく犯罪者になりそうなとこだったんだけど」
「手を出しただけならまだしも、相手は中学生……
白い目で見られるのは間違いないでしょうね」
「俺年下に興味ないんだって」
嫌そうに吐き出した胡粋が、壁に背を預ける。
大人の事情はさておき、菓ちゃんにはキスシーンを見せつける、という結論になった。
本当に彼女の恋心を阻むのは申し訳ないけど。
胡粋とキスするのに、平然としてるわたしはどうかしてるんだと思う。……まあ、いまさらどうしようもないけど。