鵠ノ夜[中]



「胡粋……本当は彼女さんのことかなり好きだったでしょ?」



「……なんで、そう思ったの?」



「菓ちゃんへの当たりが強いから」



正式に跡を継ぐ鯊家の子どもは、胡粋だけ。

けれど彼の父親の兄もまた鯊家の人間で。わたしの知り得る情報は完全とは言えないのだが、おそらく。



「鯊家の姉妹……

お姉さんと菓ちゃんは、よく似てるんじゃない?」



「、」



「だから、嫌なのよね? まるで、彼女の相手をしてるようで」




胡粋が顔をしかめた。

それが何よりの答えだ。別れた彼女とよく似た風貌の少女に迫られるなんて、嫌に決まってる。……ああ、そういえば小豆兄弟も、よく似てるけど。



「好きになりそうで、怖いんじゃない?」



「ごめん、さすがにそれは違う。

まあ……それと似通った理由があるのは認めるけど。俺の気持ちはそんなに簡単にレイから揺らがないから」



憩と櫁は、似ているようで違う。

見分けがつかないなんて言われてるけど、見分けならすぐにつく。憩は憩で、櫁は櫁で。



だからふたりは、……ふたり、は?



「……レイ?」



──はっ、と。

名前を呼ばれて、我に返った。



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