鵠ノ夜[中]
「あ……ごめん、なさい」
「いや、別にいいけど……そろそろ菓来るだろうから、」
そう促されて、扉を一瞥する。
わざとらしくほんのすこしだけ隙間をあけてあるけど、まあ、純粋な彼女はそこまで深くその意味を考えたりしないだろう。
伝えた時間を思い出して胡粋の首裏に腕を回した。
扉側に胡粋が背を向けている状態で、わたしだけがそちらの様子を確認できる。
菓ちゃんが覗く前に疲れてしまうと困るから、はじめはナチュラルに触れるだけのキス。
髪を撫でられてイチャつくみたいに時折くちびるを重ね合っていたら。わずかに聞こえた足音にキスの深さが増した。
「……こーちゃん?」
小さな、彼女の声。
ちらりとほんのすこしだけ様子を見たら彼女はびっくりしたように、手で口元を覆っていた。
だけど今度驚かされたのは、わたしの方だ。
てっきり彼女だけだと思っていたのにその後ろには雪深の姿。目が合って、どうして雪深がいるの?と尋ねる間もなく、見えなくなる。
「胡粋……もっと、」
「……かわい、」
扉の隙間から一瞬誰もいなくなったかと思えば、その隙間に複数の姿が見えた。
もしかしてみんないる……?教えてないのに?
「ん、まって……胡粋」
腰のあたりを撫でられたかと思えば、帯が一瞬にしてゆるんだ。
さすがにそれにはおどろいて彼の手をつかんだけど、胡粋はゆるんだ拍子に広がったわたしの肩口に、のんきに顔をうずめている。
そして一度顔を上げたら、胡粋はなんとも色気のある顔でふっと笑って。