鵠ノ夜[中]
珍しくチッと荒々しく舌打ちした胡粋が、帯を返してくれる。
ベッドをおりてみんなに背を向け着物を直していたら、背後で胡粋は「それで、」と口を開いた。
「菓はなんでそんなにけろっとしてんの?」
「え、えへへ……」
「………」
「ご、ごめんなさい……
あのね、ほんとは菓、こーちゃんのこと好きじゃないっていうか……」
「はあ!?」
胡粋が本気でびっくりしてる。声だけでわかるぐらい。
ここに来てから胡粋がこんなに驚きを表したことなんて今まであっただろうか。……わたしの記憶の限りは、ないけど。
「じゃあ今までのは何だったわけ!?」
「だって……こーちゃんが、お姉ちゃんのこと取るから、」
「、」
「お姉ちゃん……
別れてからもこーちゃんこーちゃんって……こーちゃんに振られてから、菓に構ってくれない」
振り返ったら、胡粋は目を瞬かせていて。
それから困惑したように、菓ちゃんを見つめ返すと。彼女の目線に合わせてしゃがみ込み、「あのさ」と口を開く。
「あいつ、俺のこと"こーちゃん"って呼ばないよ……?
あと、なにを勘違いしてんのか知らないけど……振ったのはあいつの方で、振られたの俺だからね?」
「へ……?」