鵠ノ夜[中]
今度は、菓ちゃんがキョトンとする。
それから「そんなわけない!」って反論するけど、どうも彼女と胡粋の意見は噛み合わないようで、話が纏まらない。
「だってこーちゃんと別れてからも、ずっと、」
「いや、あいつ昔は俺のこと菓みたいに呼んでたけど付き合ってからは『胡粋』って呼んでたし」
「……それ。
ただ単に新しい男が"こーちゃん"に当てはまる男だっただけじゃねえのか」
しぶしぶ。
解決しないふたりにはとりがそう言えば、胡粋は「別れたっていつぐらいの話?」とダイヤに触れながら問う。──と。
「こーちゃんが、関東に出てくる2ヶ月ぐらい前……?」
「それ絶対俺と別人じゃん……俺、1年以上前に別れてるから」
なんだそれ……とため息をつく胡粋に。
納得いかないという顔をした菓ちゃんは。
「だってこーちゃん、よくお姉ちゃんの家行ってた!」
「あー……あーね……
別れた頃からあいつ一人暮らししてたし、たまに、行ってたけど……いやまあそれは色々事情があってのことで、さ」
「事情ってなに」
聞き詰めてくる彼女に「菓にはわかんないよ」と胡粋は誤魔化そうとしてるけど、わたしたちには伝わってしまってるわけで。
この男。……別れた彼女と長々、恋愛感情のない関係を続けていたらしい。しかも相手にはどうやら彼氏さんがいたっぽいのに。
「っていうか菓……
言ってることとやってること矛盾してない?あいつが俺を好きってほんとに言ってたとしたら、なんで俺と菓が付き合うとかいう結論になるわけ?」
「え、だって……こーちゃんにお姉ちゃんを取られて、さみしいから……
こーちゃんが菓と付き合ってくれたら、お姉ちゃんはこーちゃんのことをあきらめて、菓にいっぱい構ってくれるはずだもん」