鵠ノ夜[中]
菓ちゃんは、どうやら。
胡粋のことが好きなわけじゃなく。お姉ちゃんのことが、ただただ大好きらしい。……だから。
構ってもらえなくて、寂しかっただけで。
こんなにも純粋な女の子の気持ちを聞いたら流石に胡粋も今までの態度に罪悪感が湧いたらしく、「菓」と髪を優しく撫でた。
「俺じゃなくて次の男が悪いんだから、こんなとこで俺に文句言ってる場合じゃないと思うよ」
「う……こーちゃん、あの……
勘違いで余計なことして、ごめん、なさい……」
「いいよ。……俺も冷たくしてごめん」
「でも菓……こーちゃんのことすきだよ」
ふ、と胡粋は小さく笑って。
「ありがと」と言ったあと、「俺も菓のことかわいいと思ってるよ」と彼女に優しくしてあげているのだけれど。
「ちがうっ。
あのねっ、雨麗さんのことだいすきなこーちゃんのことがすきなの!」
「は?」
……ああ、これはまた厄介な。
すっかり彼女に胡粋は好かれてしまったようで、ぎゅって抱きつかれてる。それから、彼女はえへへとかわいく笑って、胡粋の頬にくちびるを押し当てた。
「だいすき、こーちゃん」
……まあでも、彼女も胡粋と似たようなものだ。
本当に好きじゃなかったら、彼女はわざわざ同じ中高一貫校に入学できたら付き合って、なんて言わないだろうし、ね。
「……あいつに似てるからなんかムカつくね。
っていうかレイがいるから無理」
「ざっけんな胡粋……!
お嬢とお前付き合ってねえじゃん!つーか菓ちゃんの勘違いだったってことはさっきのアレは何も役に立たなかったってことだろうが……!ふっざけんなお嬢のこと脱がしやがって殺す!」