鵠ノ夜[中]
「熱はないようですが……本当に、大丈夫ですか?雨麗様」
いつも通りの小豆なのに。
生まれた頃からずっと一緒にいるのに。どんな風に接していたか分からなくなって、視線が泳ぐ。……ああもう、なに、これ。
「小豆」
呼べば、いつだって「はい」と返事してくれる。
彼がわたしの呼び掛けに答えなかったことなんてない。──お母様から聞いた約束の話が、脳裏を過ぎる。
「小豆の一番は……わたし?」
『ずっと一緒にいますよ』と。
彼が交わしてくれたその約束を、わたしは覚えてない。曖昧な口約束で、それを彼が守り続ける理由なんてどこにもないのに。
──好きだから、と。
そんな至極単純な、シンプルな理由だけで。彼はわたしとの約束を、ずっと守ってくれているのだ。
「変な夢でも見たんですか?」
くすりと笑った彼が。
わたしに「一番ですよ」って言ってくれる。
「俺にとってはずっと一番のつもりでしたけど……
まさか雨麗様、知らないなんて仰らないでくださいよ?」
「一、人称……」
「今日はプライベートですので」
手の甲で頬を撫でられて、何を言うでもなく「うん」とうなずいた。
どれに対する返事だったのかは、自分でもわからないけど。小豆の口からはっきりと聞けた言葉に、すごく安心した。
「わたしのこと好きじゃなくなっても……
小豆は、わたしを一番大事にしてくれる?」