鵠ノ夜[中]
「ぎゅうって、しててね」
「前からですか?それとも後ろから?」
「前……!
うしろからだと、櫁の顔が見えないでしょ?」
「そうですね。でも、」
ベッドの上に腰を下ろして、彼女を抱いたまま寝転がる。
まだ彼女は幼くて、男女の目で見るにはさすがに早すぎる。特に下心もなく、お望み通りぎゅっと抱きしめてあげるのは構わないけれど。
「顔、見えない……」
当然身長差があって、俺の胸元に顔をうずめるかたちになっているのだから、彼女からは顔が見えない。
想像通りの反応をしてくれるからくすくす笑っていたら、「腕枕」と強請られた。
「ふふ。どうぞ」
彼女が頭を微かに持ち上げるから、その間に腕を通す。
静かに頭を乗せた彼女が俺に寄り添ってきて、直属の主人では無いが目上の存在である彼女が、まるで妹みたいにかわいい。
「ねむれるまで……お話、して」
「えらく今日は無茶振りが多くないですか?」
「最近かまってくれない罰だもん」
……それ、なら。
もっと構う時間が減れば良いのに、なんて、ばかげたことをすこしだけ本気で考えた。
結局のところ、俺も彼女のことが可愛くて仕方ないのだ。
昔からずっと一緒だった。だから彼女のことは、兄さんと同じくらいに知り尽くしてる。──きっと、彼女以上に、彼女を知ってる。