鵠ノ夜[中]
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好きか嫌いか問われたところでそうでは無い場合もあるし。
なんなら好きにも種類はあって、その数はおそらく人との関係性が無限にあるのと同じように、無限にあるのだ。
けれどあのとき、俺の返事は「はい」だった。
ただその好きの一言に込められた意味までは説明しなかったし、
「櫁、っ……」
──その当時とは変わっているわけだが、と。
媚びるような甘い声で俺を呼び、背に爪を立ててくる彼女を腕に抱き寄せながら過去に思いを馳せた。
なぜか。……なぜか。
怖い夢を見たと言って俺の部屋に押しかけた幼き日の彼女は、今日も俺の部屋に押しかけ、あろうことか「なんとなく」の言い訳をしたのだ。
わざわざ有給を取っている日に来なくても。
……まあ、もう日付は変わっているからどうでもいいのだけれど。
あの後の彼女の成長スピードといったら、笑えない。
小学生のうちに御陵の仕事を覚え、中学生の頃にはもうその手を染めていた。法に触れることはしていないはずだが。……ああ、でも。
「雨麗様、"良い"のはわかってますけど。
腰を引かれては、もったいないですよ」
未成年とのコレって、犯罪だったか。
でもまあそんなこと言ったら、今時高校生の3分の1くらいは逮捕されんじゃ無いかなと思う。高校生の男女関係事情なんて知らねえけど。
浅い呼吸で背中を丸め、無防備に肌をさらす彼女。
刺激を与えたらその背中が徐々に反っていく様を見つめながら、シーツを握り込む彼女の手に手を重ねた。
「それにしても、」
あの頃もそうだったが、彼女はやけに俺の表情を気にする。
今日も表情を見たいと言われたがやんわり牽制した。……どうせ、前からだろうと俺の表情を気にする余裕なんてないだろうけど。
「今日はどんな気の迷いですか」
数時間前まで、明日観光して明後日帰るらしい鯊家のお嬢様と仲良く話されていたようなのに。
何がどうなって、こうなっているのやら。