鵠ノ夜[中]
「雪深」
ちゃんと名前で呼ばれて顔を上げればお嬢は、「出ないの?」と聞いてくる。
お嬢を傷つけたくないからと再開した女の子遊び。気が向いた時だけにしてるけど、さすがにお嬢の前で約束を取り付けようとは思わない。
「んー……いいや」
「そう。……遊ぶのも程々にしなさいね」
「……うん」
相手が女の子だってこと、お嬢はわかってる。
わかってて止めないのは、自分のためだって理解してるからなのか、俺と恋愛する気が微塵もないからなのか。……なんて。
考えたところで、どうにもなんないんだけど。
「レイちゃんレイちゃん」
芙夏が、お嬢の服を引く。
そうすれば彼女は「なに?」と優しげに問いかけて、それにふにゃっと笑った芙夏が、あのねと彼女の耳元で何かを囁いた。
「ええ。
……芙夏がそれで構わないなら」
「ふふ、ありがとー」
「……どういたしまして。
小豆、家に着いたらあなたは業務終わっていいから。それと、シュウ。夏休み後半分のジムに通ってもいい日程を纏めた書類、受け取った?」
「ああ、旅行から帰った時に渡された」
「それならよかった。
胡粋、この間言ってた予定のことだけど、」