鵠ノ夜[中]
質問を理解しきれていても答える余裕が無いようで、彼女は途切れ途切れの声を響かせるだけ。
仕方なく動きを一度止めて話す時間を与えてあげたというのに、彼女の深くまで触れ合う部分がもどかしいと告げるように疼いた。
「意味、はない、の……
ちょっと、人肌恋しくなっちゃって、」
「なら、皆様のうちのどなたかにお願いすればよかったのでは?」
「ッ、」
振り返った彼女の瞳に、薄暗い中でもわかるほど涙が滲む。
別にひどいことを言ったつもりはないのだが、どうやら彼女はダメージを負ったらしい。
「その……櫁が、よくて、」
……ああ、その顔。
仮にも自分を好きだという男に見せる顔じゃない。絶対に食われる。……もう食ってるからどっちみち、って気もするけど。
「だめ、だった?」
「いえ別に。俺も男なので、溜まるものは溜まりますし」
都合良いですよねって言えば睨まれた。
好きだって言ったらお互いの関係を気にするくせに、恋愛絡みの話題を出さなくなれば途端にこれだ。
だから女って面倒だ、と。
昼間に和璃さんの手伝いで仕事場に行ったら、やたらと絡んできたアルバイトの女性たちの存在を思い出す。
髪色も明るく、若くて派手めな子達。
申し訳ないが美容室だからこそ雇われているものの、ほかの飲食店なんかでは絶対に雇われないだろうな、と思った。
和璃さんにも、後から「ごめん」って謝られたし。
まあ彼が雇っているんだから、それなりに信頼できるスタッフなんだろうけど。
「でも。
あんまり、あえて俺を選ぶようなことばかりされていては……俺もいい加減自惚れますし、腹も立ちますよ」