鵠ノ夜[中]
雨麗様に好かれたいと思っている男は少なく無いのだ。
兄さんに五家の皆様をはじめ、彼女が接待に応じた相手は高確率で彼女に見合いの話を持ち出す。……今のところ全て断っている、が。
すなわち、その中で意味がなくとも「櫁がよくて」なんて言われたら単純思考の働く輩は多い。
できれば自分だけであってほしい。けれどそうではないから、思わせぶりな態度に腹が立つ。
「だ、って、」
「………」
「櫁が悪いんじゃない……」
──独白に、近かった。
俺に言うというよりは、自分の中で感情を整理するみたいに。ぽつりとこぼして、重なる手をじっと見つめる彼女。
俺が悪い、と言われても何かした記憶はない。
昨日は有給でほぼ顔を合わせなかったし、今日に至ってはまだ日付が変わって間もない。……なのに、俺が悪いらしい。
「女の子の匂いなんか、させてるから……」
「、」
「櫁はわたしのなのに、」
……俺がおかしいんだろうか?
彼女の発言を纏めるとまるで、俺から他の女の匂いがしたのが嫌で抱かれに来た、と言ってるように聞こえる。
「それって……ヤキモチ妬いてます?」
まさか、とは思った。
だけど彼女は口を閉ざして、何も言わない。
そう、とも言わなければ。
……違う、とも、言わなかった。