鵠ノ夜[中]



「雨麗様。……こっち向いてください」



こんな時だけ、自分が選んだ体勢を憎む。

嫌々振り返った彼女が口を開くよりも早くキスで塞いで、じれったい気分を隠すように止めていた動きを再開した。



……ああもう。クソ、ムカつく。



キスの隙間で、甘ったるい彼女の声。

声量も我慢できないようで徐々に大きくなっていて、近くの部屋には普通に聞こえてる気がする。この時間だし、静かだし。



「櫁、むり…っ……、」



「ダメです。

俺のことを煽ったのは雨麗様なんですから」



もう、めちゃくちゃだ。

抑え続けてきた欲求で衝動的に彼女を求めたあの日の俺が悪かったことは理解しているが、容易に「ヤキモチ」だなんて言う彼女も悪い。




あの頃子どもだったはずの彼女は。

今や男をいとも簡単に誘惑してしまうほどの妖艶な大人の女性へと成長した。それでもまだ、彼女は未成年の括りの中にいるのだ。



もはや彼女の将来なんて、想像したくもない。



「はっ……、いっそ壊れればいいのに」



「みつ、」



「狂って壊れて……

さっさと俺のになってくれても良くないですか?」



あーあ、我ながら無茶なことを……

旦那様から信頼して頂いているのに、その信頼も水の泡。最も、彼が先日の一件を知らないこともないのだろうけど。



……いっそ、言ってしまおうか。



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