鵠ノ夜[中]
「ここ数ヶ月。
あいつは自らお前の兄貴の手を離したかと思えば五家の男共を誘惑し、挙句の果てに、」
──鋭い瞳が、俺を捉える。
言われることなど理解していた。五家の皆様を誘惑している、のかはさておき、彼女が誘惑と取られるような行動に出ていることを、彼は知っている。……つまり。
「小豆、お前にもだ」
旦那様が、俺と彼女の間にあった事を知らないわけがない。
誰かが教えているのか、さては旦那様の勘がとても良いのか。
「これでもお前の感情は汲んでいるつもりだ。
お前の兄貴との不仲の原因もな。ただし、お前が今やるべき事は雨麗の使用人であることだ。本来主人との男女関係が御法度なことは理解しているな」
「はい。……申し訳ありません」
まだ20代前半とはいえ、常識はある。
自分が何を仕出かしているのかは、聞かれるまでもない。──触れなきゃよかったのだと、いまさら後悔が芽を出す。
「暫く離れるか」
「え、」
「雨麗ももう子どもじゃない。
そうだな。……もうすぐ夏も終わる。年が明けるまで、お前は雨麗の専属から外れろ」
年が明けるまで。
つまり今年いっぱいだ。あと4ヶ月と少し。専属から外れろということは、兄さんがここにいた頃と変わらず、少し距離ができるだけのこと。何も仕事をするなと言われているわけじゃない。
「ですが、その間雨麗様は不便な思いを、」
「小豆。……あいつは有能だ」
「旦那様、」