鵠ノ夜[中]
小豆の行きそうな、場所。
いくつか回ってみたけれど見当たらなくて、近くを通り掛かった組員に「ねえ小豆知らない?」と声を掛ければ。
「小豆さんならさっき用事だとかで外出しましたよ」
「だから居ないのね……」
「それより、小豆さん何かしたんですか?」
「え?」
「……? 何も聞いてません?
年明けまでお嬢の専属を外れることになった、って。朝からその話題で噂好きな使用人の女性陣が盛り上がってましたけど」
専属を、外れる?
なにそれ、と訝しげな顔をしたわたしに「まあ噂は噂ですからね」と彼は口にするけれど。昨夜のことを思い返すと、どうも否定しきれない。
「お父様に確認しておくわ」
そう言って彼と別れると、あっさり目的地を決めたわたしはお父様の部屋へとお邪魔する。
部屋に入っただけで要件を悟ったらしいお父様は、あくまで事後報告で、わたしに「小豆をお前の専属から解任した」と口にした。
「どういうことですか、お父様」
「そのままの通りだ。
小豆の身勝手な行動が最近目立っている」
身勝手な、行動。
それはたとえ誘ったのがわたしであれ、彼がわたしに手を出した事実であるという事だろう。何よりもご尤もな発言のため、わたしもそれは否定できないけれど。
「何もずっとってわけじゃない。
年明けにはあいつをお前の専属に戻す」
それまでだ、と言いながら手元の新聞から顔を上げないお父様。
お父様との会話は、いつも成立しているようで成立していない。本来なら成り立つはずの言葉のキャッチボールは、いつも一方通行だ。