鵠ノ夜[中]
「だってそうでしょ?
会えなくて悶々として文句を言いたくなるのってさ。付き合ってるカップルが突如として遠距離恋愛になったのと同じだからね」
「………」
「『生活できないわけじゃないけど、いないと困る』って何それ俺への嫌がらせ?
生活できないわけじゃないなら、困るのって精神的な理由なわけでしょ?そこまで精神的な理由で悩むのって、好きじゃなかったら何なの?」
グサグサくる。
……グサグサくる、けど。
「……好き、ねえ」
その部分だけが、どうも引っかかって納得できないのだ。
憩のことは気づけば好きで、恋愛のはじまりを自分でも理解していないから、余計にわからない。小豆のことは好きだけどそれが恋愛感情かどうか、なんて。
……違う、と思ってるんだけど。
「わかった言い方を変える。
恋愛感情じゃない、と思い込んでる理由はなんなの?」
「理由?」
「そんなに違うって否定する理由」
ふむ、とグラスに口をつけて考える。
背の高いカクテルグラスだけど、中身はフルーツ系の炭酸割りだ。顔見知りのバーテンに「今日はアルコールを出さない」と念押しされて、泣く泣くあきらめた。
まあ、酔ってこの男に持ち帰られても困るし。
「だって小豆はわたしの専属使用人よ?
そもそも恋愛関係になることがおかしいし……歳も8つ上で、何となく腑に落ちなくて納得出来ないっていうか……」
……あれ?
でもわたしは元々専属だった憩と付き合ってて。小豆の兄にあたる彼とはさらに歳が離れてる、わけで。