鵠ノ夜[中]
生まれた時からこの関係なのに、そんな無茶な。
それでも、わたしと小豆がもし付き合える関係だったら、と一応思考は動かしてみる。けれどやっぱり、ぱっとしなくてあきらめた。
「そもそもこの関係じゃなかったら、
きっとはじめから好きになんてなってないわよ」
そう言って、グラスの残りを飲み干す。
……けれどなぜか、彼はわたしのことをじっと見つめていて。なに?と問えば、呆れたようにため息をつかれてしまった。
「……いま自分で好きって言ったの気づいてる?」
「何が?」
「『この関係じゃなかったら好きになんてなってない』。
言い換えると、この関係だから彼のことを好きになったって意味だと思うんだけど」
指摘されて。
無意識に「好き」と言ったことに気づく。
「好きなんだよね?」
わざとらしく聞いてくるゼロを、赤い顔で睨んだ。
タチが悪い。……いや、無鉄砲に何も考えず話してたわたしも悪いんだけど。さすが人の弱みに漬け込むのが好きなゼロだな、と心の中で彼に責任を押し付けた。
「……わかんない」
この期に及んで何言ってるんだろうって、自分でも思う。
だけどまだ、いくら好きと言われても、無意識に好きと言っていても、自分で掴めきれていない。──もっと、確信的な、何か。
「でも……ほかの女の子に取られたくない」
グラスのふちを、指で撫でる。
何ともいじらしいし、もどかしい。……ああでも、純粋に心地いいの。思考をすべて持っていかれるほどの強い衝動の中で裏腹なほど優しく彼に肌を撫でられると、堪らなく心地いい。
だめ、だ……また触れて、欲しくなる。
二度も知ってしまった感触はそう簡単に脳裏から剥がれてくれなくて、鮮明なほどに、蘇るから。