鵠ノ夜[中]
「人肌恋しいなら抱いてあげようか?」
「あなた凄く最低なこと言ってるって気づいてる?」
あの日小豆は、五家の誰かに頼めばよかったのでは、と言った。
わたしもそう思う。雪深や胡粋なら喜んで相手をしてくれただろうし、たっぷり愛情を注いでくれたことだろう。けれど、どうしても。
「……彼以外に、触れられたくないの」
いまは、小豆のことしか考えられない。
一度目も二度目も、わかっていたのだ。
部屋に行けばそうなるってわかってて、わざと行った。人肌恋しいなんてそんなの言い訳でしかなくて、端から小豆と決めていたのだ。
それだけでもう。
答えなんか……出ているような、ものなのに。
「答えは出た? おじょーさん」
「おかげさまで。
……それにしてもやけに協力的ね、ゼロ」
「きみが誰と付き合おうが結婚しようが、一連の計画には何の支障もないからね。
それに。……首輪に繋がれた無知な番犬たちよりも、首輪に繋がれていないのに女王の忠犬の彼の方が、使い勝手もいい」
「……相変わらず損得勘定がお好きなことで」
そうじゃなきゃ成り立たないことも知ってるんだけど。
ほかの人は疲れるんだろうなと思いながら、ゼロをまっすぐに見つめる。照明の当たり方で彼の瞳は色を変えて、いまは深海のように濃くなっていた。
「例の『モルテ』の情報をうちの組はまだ追ってる。
腕利きの良い情報屋ですら今回は手間取ってるのよ。……あなた、何か知ってるわよね?」
徐々に広まりつつある違法ドラッグ。
止めようと躍起になっても出どころが掴めないのなら、一向に止めようがない。根絶やしにできなくても、これ以上この界隈に持ち込まないことくらいはしておかないと。