鵠ノ夜[中]
「『モルテ』の特徴がなにかは知ってるの?」
「覚せい剤と似通ったものだけれど、
精神的快楽はそれの3倍近くになるそうね」
「その分、リスクも高まるけどね。
……俺が聞き出せた情報はあくまで一部だけど。あの『モルテ』は、性的興奮を促す効果も高いらしいよ」
「、」
「ここ最近この界隈で女性の狙われる犯罪が増えてる。
……つまりは、そういうことだろうね」
当然100%ではなくとも、犯人の中には『モルテ』の使用者が含まれている、ということだ。
それを探っていけば、少しずつドラッグのルートは掴めるかもしれないけれど。何度も言う通り、警察と違ってこちらは動きにくい。
もう少しヒントになるものを、と深海の瞳を見つめれば。
彼はくすりと笑って持参していた紙袋の中から、紙の束を取り出した。そこそこ分厚いそれの1枚目は、履歴書のようなもの。
「ここ最近この界隈で女性を狙った犯罪を起こして、捕まった犯人たちの情報。
……欲しいって言うならあげてもいいよ?」
「、」
「ただし……タダで、とは言わない」
でしょうね、と笑みを増す彼に「何が望み?」と尋ねた。
お互いに利益となって不利益となる取引を、わたしはこの男と何度重ねればいいのだろうか。そもそも相反する関係性なのだから、こうやって顔を合わせていることすらおかしいのだけれど。
「目的は"きみ"だよお姫様」
「あら、どんな冗談?
わたしが誰と付き合おうが結婚しようが、関係ないって言ってたじゃない」
「御陵雨麗に興味はないんだ。
ただ、誰からも愛される価値のある"姫"を。……略奪しておけば、面白そうじゃないかと思って」