鵠ノ夜[中]
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今回で3度目。でももう既にわかってることがある。
はじめての時は気まぐれと事故みたいなものだったけれど、いずれもわたしがそうなるのを理解した上で彼に声をかけていた。
「旦那様に知られたら、今度こそ解雇ですかね」
「さあ……
あなたの誕生日に一緒にいるんだから、お父様も大体見当はついてるんじゃないの?」
「皆様には言い訳してこられたのですか?」
「雛乃ちゃんの新居に泊めてもらう、ってことにしておいた。
もちろん雛乃ちゃんには口裏合わせてもらってるけど……『まさか雨麗が櫁とねえ』って電話越しでもわかるぐらいニヤニヤされたわよ」
付き合ってないわよ、って否定はしておいたけど。
『好きでもない男に雨麗は抱かれたりしないでしょ』とご尤もなことを返された。……まあ、櫁とはじめてそうなった時は、そんなこと考えもしなかったけど。
いつ好きになったのかしら、と。
頭の中で記憶をたどっていたら彼の指先で意識を引き戻されて、考えるのを放棄した。隅のライトだけが、薄らと部屋の中を照らす。
「雛乃さん、ちょっと前まで兄さんとヨリを戻せば幸せだって仰ってませんでした?」
「うん……
でも雛乃ちゃん、わたし以上に気まぐれだから……」
どうせ覚えてないと思う。
雛乃ちゃんはいつでものびのび雛乃ちゃんだからな、と。彼女と、それに付き合わされる旦那様のかむちゃんのことを思い出しながら苦笑した。
それから沈黙を捨てるように息をついて、小豆と視線を絡ませると、自然と距離はなくなった。
極道の関係者なことも、一使用人であることも思わせないほど綺麗な指が服の下へと入り込んできて、男女の関係を結ぶ時間が、甘く滴る。
本当は。
彼の誕生日に、こんな誘いをするつもりはなかった。……ただ。
「あ、ずき、」
お父様が、小豆を専属から外したりするから。
だから余計に欲しくなって、たまらない。当たり前のようにそばにいてくれたのに、距離ができただけで、とてつもなく求めたくなる。