鵠ノ夜[中]
女子高生側からすれば、身体を売るなんてことをしなくたって、次の相手のところまで頼まれたものを運ぶだけで数万の金が手元に入る。
よっぽど楽な小遣い稼ぎの仕方だ。
「依存性が強いので、売人が何もしなくても客は勝手に買ってくれます。
……ですが、女子高生に「売る相手を増やせば報酬も弾む」なんて唆した瞬間、女子高生も別の客に『モルテ』を売りつけるでしょうしね」
『そーそー。さすが女王様の忠犬』
「………」
『これ考えたヤツ、切れ者だよねえ。
女子高生って法律なんかも付け焼刃程度にしか知らねえから、「ドラッグの密輸がもし見つかったとしても18歳未満は罪が軽くなる」とかテキトーなこと言っときゃ、コロッと騙されんだよ』
「……ありえない」
騙している大人も、騙される高校生も。
どちらも、自分勝手すぎる。
『んで。
その女子高生、既に数人なら個人情報把握できてるけど?』
「2倍」
『微妙だな。
俺、当初頼まれてたものよりかなり情報与えてやってるはずなんだけどね』
「3倍。
足りないならついでに、あなたの好きそうなお姉さんがたくさんいるキャバクラも教えてあげる」
『乗った』
彼が、電話越しに口角を上げたのは言われなくてもわかる。
……まあ、こうなることは想定済みであらかじめ初期の設定額は下げておいたんだけど。それでも結構な額を彼に払わなきゃいけない。別にいいけど。
『いつもみたいに書面で渡すから、いつでも俺の城まで取りにきな』、と。
それだけ言って、一方的に電話が切れる。