鵠ノ夜[中]
明日の学校帰りに行けばいいかしら、とふつふつ考えていたら。
「雨麗様」と名前を呼ばれて、自分の置かれている状況を思い出した。……そうだった。
「え、っと……」
「私はシャワーを浴びてきますのでゆっくりお休みになってください」
「え?ちょっと小豆!?」
やめるの!?という目で彼を引き止めたら、逆に「続けるんですか?」と問いかけられた。
ここで続けると言ったらなんだか欲深い女みたいだけど、でも……やめるっていうのも、なんか、違う気がするし。
「あ、小豆は……どうしたい……?」
……我ながら。
笑ってしまいそうになるほどの、ぼろぼろ具合だ。わたしに突如として選択を迫られた彼は、別段驚くこともなく「雨麗様」とわたしを呼んだ。
「今日のこれが、プレゼントなら。
また別の機会に取っておくのでどうでしょう?」
「そういえば、小豆ってたまにぶっ飛んでるんだったわね」
最近は何もなかったからすっかり忘れていたけど、常識はあるくせに小豆は常識人じゃない。
けれど小豆らしくなくて思わず笑ってしまったから、これはわたしの負けで。
わかった、と返事して。
シャワーに向かった小豆を見送り、シーツにくるまってスマホに触れる。小豆がもどってきたら、今日は抱きしめられて眠りたい。
だからそれまでは起きていようと、思っていたのだけれど。
「……櫁」
まだ僅かに残る、温もりと香りに安心して。
もどってくる彼を待つこともなく、深い眠りに落ちた。
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