隣の不器用王子のご飯係はじめました
その時の遠坂くんは、まさに顔面蒼白だった。
「嘘……だろ……」
「親御さんに迎えに来てもらうこととか……」
「父さんも昨日から二泊三日で出張」
シンと静まり返った。
弱まる気配のない雨の音だけが、絶えず辺りに響く。
「……うちに、泊まる?」
お金はかかるけど、タクシーを呼ぶとか他にも方法はあったかもしれない。
でも、この時の私にはそれが最善に思えて、気が付いたらそう口に出ていた。
「……いいの?」
「うん。レナさんの部屋と同じ間取りで、あんまり広くはないけど……それで良いなら」
遠坂くんはかなり躊躇していたようだったけど、やがて静かにうなずいた。
「じゃあ……お願いします」
ずいぶんと大胆な提案をしてしまったのではないか。
そう私が気が付いたのは、遠坂くんを再び玄関に上げた後のことだった。