隣の不器用王子のご飯係はじめました
そう言って隣の部屋へ食器を運ぶ遠坂くんの表情は、若干の疲れは見えるけど、達成感に満ちていた。
このレシピはまたスマホに送ってあげよう。
……あとは上にケチャップをかけたら完成、っと。
私はケチャップを冷蔵庫から取り出し、適当にかけようとしてちょっと止まる。
昔はよく、オムライスにケチャップで文字を書いてたな。
自分の分には名前を。両親の分には「ありがとう」とか「おつかれさま」とか。
じゃあ、もし遠坂くんにメッセージを書くとするなら……。
“すき”
ひらがなで、少し小さめにそう書いてみる。
──いやいやいやいや、これはダメでしょ!ないない。
力なく苦笑いしていると、背後からその文字を一番見られてはいけない人の声がした。
「“すき”?」
「うわっ」
心臓が飛び出すような心地がした。
手元にあったスプーンを反射的に手に取り塗りつぶす。