隣の不器用王子のご飯係はじめました
そして、こっそり母の反応をうかがう。
恐る恐るという感じでスプーンを動かしていた母だったが、次第に動かすスピードが速くなってきた。
かと思うと──
「……」
母は、静かに涙を流していた。
俺は少し焦って聞く。
「口に合わなかった?」
「違う……違うのよ。ごめんなさい。ごめんなさい浩斗」
母はぼろぼろと涙を流したまま、うわごとのように俺の名前と謝罪の言葉を繰り返す。
姉さんが台所へ行き、コップ一杯の水を母に差し出した。
「母さん、落ち着いて。水飲んで深呼吸」
「っ……ええ……」
「ひろが作ってくれたご飯、食べ終わったらゆっくり話そう?」
母はうなずいて水を飲み干す。
数分後には、全員の皿の中身はすっかり空になっていた。