隣の不器用王子のご飯係はじめました




「あの頃の私は普通じゃなかったのよ」



母は静かに目を伏せ、そう語りだした。


夫に裏切られて悲しかったが、どこか愛されていないことは感じていたから、他に想う女性がいたという事実は腑に落ちた。

それより二人の子どもがいるんだから、これから一人で育てていくために頑張らないとと気を張っていた。



「……だけどね、周りからはかなり責められたわ。子どもたちに父親がいないのは可哀そうだ。一人親は苦労するぞ。一度や二度の不倫は許してやれ。旦那を繋ぎ止めておけないのは妻として欠陥があるからだ。他にも色々とね」

「何それ、酷い」

「ええ。あの時は誰を頼るべきなのかもわからなかったし本当に辛かった。あなたたちには辛そうな表情を見せるものかと自分に言い聞かせる毎日だった」



極限の精神状態での毎日。

それでもその日々に慣れてきた頃のこと。


ある日突然、息子が元夫の姿に重なって見えるようになった。



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