隣の不器用王子のご飯係はじめました



「遠坂くん、どうしてここに?レナさんなら実家に帰ってるはずだけ……ど……っ⁉」



……一瞬、自分の身に何が起きたのかわからなかった。


遠坂くんは、駆け寄った私の背中にいきなり手を回し、ギュッと抱き寄せてきたのだ。



「と、遠坂くんっ⁉」



名前を呼んでも反応せず、彼は無言のままひたすら私を抱きしめ続ける。


なななな何⁉この状況!

わけわかんない。ドキドキしすぎて目が回る……。

ていうかこんなに密着してたら、私の心臓の音なんか簡単に伝わっちゃいそうなんだけど。



恐らく、数十秒はそのままの状態で静かに時間が流れた。

遠坂くんが呼吸を整えるように、深く息を吐く音だけが耳元で聞こえる。


やがて、私のことを抱きしめる力がわずかに強くなった。



「俺……」



遠坂くんがようやく口を開いた。

耳元で囁かれる声に、私の緊張が最高潮に達する。



< 229 / 251 >

この作品をシェア

pagetop