隣の不器用王子のご飯係はじめました
「あの、えと……私は、その……」
頭がぐるぐるして言葉が上手く出てこない。
「ご、ごめんなさい間違えましたっ!」
私はどうにか早口でそう言って踵を返す。そして慌てて自分の部屋に駆け込んだ。
え?え?
だって有り得ない。
鍋を持っていない方の手で額を押さえて、ドアの向こうにいた人を思い出す。
さらりとした黒髪に、色白の肌。少し冷たそうな印象を与える目と感情の読めない細い眉。
思わず人目を引いてしまうような美形で、私の通う高校の制服を着た男子。
今日も由梨から散々話を聞かされた、私たちの学校の王子様。
どうしてレナさんの部屋から──
──遠坂くんが出てくるの!?
私は一度落ち着こうと深呼吸をした。
さっきは「間違えました」と言って逃げてしまったけど、隣の部屋に行くだけで間違えようがない。