片翼を君にあげる②
でも、ツバサならきっと大丈夫ーー!!
だって彼は自分にとって憧れで、絶対の存在。いつだって予想を超えて、ボクの胸を震わせてくれた。
だから、きっと今回もーー……。
「ーー……ツバサ?」
視線を隣に向けたボクは、思わず名前を呼ぶ。
それは、初めて見る表情のツバサだった。
少し俯いて、眉間にシワを寄せた難しい表情。悔しそうにも見えるその顔のまま、彼は目を閉じて軽く深呼吸すると、キュッと口を結んでくるっと方向転換して……。ボクを一度も見る事なく、瞬空さんを追って部屋を出て行った。
その雰囲気にもう一度名前を呼ぶ事も、すぐに後を追う事も出来ずにいると、最高責任者がノゾミさんの肩に手を置き会話を始める。
「さて、ノゾミ。私達も行きましょうか」
「そうですわね」
その言葉にハッとして、二人の後ろから付いて行こうとすると、最高責任者が今度はボクに言った。
「ジャナフ、今回君は来ない方がいいかも知れません」
「!……え?」
「いつものように、"ツバサの活躍"が見たいと思っているのなら……。それは期待外れです」
「え?っ……あの、……」
最高責任者の言葉の意味が分からない。「どういう意味ですか?」と問おうとしたが、その返事はすぐに返ってくる。
「今回ツバサの見せ場はおそらくないでしょう。
彼の"敗北"を見たくないのなら、やめておきなさい」
「!っ……。なん、ですかっ……それッ」
ツバサの敗北ーー?
それは信じられない言葉だった。
負ける?ツバサが?見せ場が、ない?
まるで目の前にあった自分の宝物が、突然消えたような感覚に陥る。
そんな筈がない、と思いながらも言い返す事が出来ないのは、きっとさっきのツバサの表情を見てしまったからだった。
「……でも。君がしかと現実を見る覚悟があるのならば、見た方がいいでしょう。
世界は広い。ツバサが全てではないと、分かる筈ですから」
「っ……」
黙ったままのボクにそう言って、最高責任者はノゾミさんと部屋を出て行く。
ツバサが全てではないーー。
その言葉が、妙に心に突き刺さった。
何故こんなにズキズキするか分からなくて……。ボクは答えを知る為に、みんなに付いて部屋を出た。