片翼を君にあげる②

「ノゾミ、大丈夫です。
それと、ジャナフ。私の言葉が足りませんでした、怒りを抑えて下さい」

そう言った後にすぐ言葉を続ける。

「私にとってツバサは親友(ヴァロン)の息子であり、大事な夢の配達人(仲間)なんです。
だから、みすみす危険と分かっていて、このまま弱点を放っておく事は出来ません。だから今回、瞬空(シュンクウ)との下剋上を決めました」

その最高責任者(マスター)の言葉からも、表情からも、悪意は感じられない。
ボクは黙って、話を聞く事にした。

「ツバサが1番恐れている事。
それは、人に嫌われる事。人を傷付ける事です」

「!ッーー……」

その言葉に、ツバサがこの前言っていた言葉を思い出す。

『ーー俺は、人間の方が怖いな』

人間が怖い、って、そう言う事ーー?

まさか、と思う。
だって、彼が人に嫌われたり、まして傷付ける可能性なんて考えられないから……。
あるとすれば、彼がすごいから嫉妬を覚える人はいるかも知れないけど……。そんな、気にする程の事ではない気がする。

ならば、一体どんな形でツバサが人に嫌われて、傷付けてしまうのかーー……?

「そして、人に嫌われたくない。傷付けたくない、と言う気持ちの表れから、あの子は自分を信じられず、本来の力を発揮出来ずにいるのです。
これ以上の詳しい事は言えませんが、その為に……。ツバサ自身が"今のままでは駄目だ"と気付いてくれるよう、今回敗北してもらうんです。
……質問の答えに、なりましたか?」

肝心な大事な部分である、ツバサが人に嫌われたり、傷付ける事については隠された感じだけど、きっとそれは……。ボクがツバサから直接聞いて知らなくてはいけない事のように、感じた。
だから、とりあえず納得して、頷いた。

「分かりました。
じゃあ、この下剋上……危険では、ないんですよね?」

ボクは敗北、と聞いて気になっていたもう一つの質問をした。すると、最高責任者(マスター)は微笑んですぐに答える。

「ええ、勿論です。
瞬空(シュンクウ)はヴァロンに憧れとても崇拝していましたから、その息子であるツバサに手を掛けるような事は絶対にありません」

その言葉にホッと一安心して……。
まだ気持ちはスッキリと晴れた訳じゃないけれど、ツバサと瞬空(シュンクウ)さんの下剋上を観る為に闘技場に来た。

……
…………。
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