片翼を君にあげる②

瞬空(シュンクウ)さんのいかにも屈強な男の体格や堅物そうな表情を見ていると、本当にこの下剋上に危険がないのか不安になってくるけど……。「ツバサ様」って呼んでたり、丁寧に話す口調から敵意は感じられない。

視線を瞬空(シュンクウ)さんからツバサに移すと、相変わらず難しそうな表情を浮かべて武器を選んでいた。
その表情は、"この人には勝てない"とすでに悟っているようで、気持ちが伝わってくる。

「ツバサは、いつか瞬空(シュンクウ)さんとも当たる可能性があるって分かってたんですよね?
でも、自信があるから上位10名の夢の配達人からバッジを奪うって決めたんじゃ……」

「奪えると思っていたのでしょうね。さっき、事務所で"今の瞬空(シュンクウ)"を目にするまでは」

ボクの隣に来たノゾミさんが、離れた場所に居る瞬空(シュンクウ)さんを見つめながら言った。

「人は機械ではありませんから、気持ち次第で常に一定ではなく強くもなれば弱くもなります。
あの人は小さな国で大切な(あるじ)を護る為に命を捧げ、常に命を賭けた戦いを繰り返してきました。敗北はまずあり得ない、自分より強いと思う者がいればそれを超える事に努力を惜しまず、負ければ死を覚悟に鍛錬に励みます。
その力に対する執着と強さの成長は、ツバサ君の想像以上だったって事ですわ」

さっき睨み合った(わがたま)りを解いてくれるかのように、そう言ったノゾミさんはボクに微笑ってくれる。

「頭が良く、相手の力量を測れるのは決して悪い事ではありません。問題はその先。
諦めてしまう、か、勝つ為にどれだけ必死になれるか……。ツバサ君は、どちらでしょう」

諦めるか、勝つ為の手段を見出せるかーー。

目の不自由な最高責任者(マスター)に代わって勝負の様子をよく見るようにか、ノゾミさんは石壁ギリギリの所まで行き真剣な眼差しで中央に視線を移した。
ボクも、その隣に行き中央を見つめる。

すると武器を選び終えたツバサが、すでに待機していた瞬空(シュンクウ)さんの元へとやって来る。
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