片翼を君にあげる②
「構いません。始めましょう」
「……分かりました。
ーーでは、参りましょう」
その言葉の直後。
向かい合っていた二人が、同時に動いた。
速いーー!!
そのあまりの素早さに、二人を見たボクはそんな単純で率直な感想しか浮かばない程だった。
間合いに入ろうと詰め寄る瞬空《シュンクウ》さん。そして、逃げながら距離を取りつつ隙を伺うツバサ。目で追うのがやっとで、思わず口がポカンと開いてしまう。
最高責任者はツバサの見せ場が全くない、と言っていたけど、ボクからしたら今のこの状況だけでもすごい。自分ならあっという間に間合いに入られて、斬りつけられているだろう。
「っ……すごい」
自然と言葉が漏れて、いつの間にか握り締めていた手に汗がジワッと滲む。
すると次の瞬間、地面を強く蹴って更にスピードをつけた瞬空さんがツバサの間合いに入る。
「!っ……危ない!ツバサッ!!」
けど、ボクが叫んだ直後。ツバサはお得意のパルクールを用いた動きで身を翻すと、瞬空さんの肩に足を乗っけて逃げるように背後に回る。
「!!っ〜〜……すごいッ!さすがツバサ!!」
まさに手に汗握る戦い。
実況とまではいかないが、ツバサの動きに合わせて言葉を発しているとノゾミさんがボクの方を見て口を開く。
「ジャナフ君、貴方二人の動きが見えていますの?」
「えっ?……は、はい、一応」
その質問に何故そんな事を聞くのか疑問を抱きながらも返事をすると、彼女が「ふふっ」と微笑った。
「本当。最高責任者の言う通り、貴方はもう少し自分に自信を持っても大丈夫ですわ」
「え?」
「夢の配達人の中でトップクラスの素早さを持つあの二人の動きが目で追えるのなら、貴方もあとは自分の力を信じるだけです」
「!……自分の力を、信じる」
「……さあ。
そろそろ勝負が着きますわよ」
「!っえ……あ、……ッ」
ノゾミさんの言葉に振り回され、気の抜けていたボクはハッとして再びツバサ達に視線を戻した。
すると、曲剣での攻撃だとばかり思っていた瞬空さんが身体をクルッと回転させ、回し蹴りでツバサが拳銃を握る手を狙った。
ガッ……!!シャーー……ンッ!!!
……、…………。
当たった蹴りの衝撃で拳銃はツバサの手から離れ、空中を舞い、瞬空さんの背後の地面に落ちる。
勝負あり、かーー……?
そう思った。