片翼を君にあげる②
……けれど。
続けて曲剣での攻撃に移り瞬空さんが斬りかかると、ツバサは身体の柔らかさを生かして背後に反ってそれを交わし……。そのまま重心を低くして駆け出すと、滑り込むようにして地面の拳銃を拾って、片膝を着いたまま瞬空さんの背後に拳銃を構えた。
「!!ッーー……。す……ごい、……っ」
胸がドキドキ、する。
もうダメかと思ったのに、ツバサが瞬空さんの背後を取った。
今まで見た事もないくらい息を乱し、汗をかいているけど、あの窮地を見事にツバサは返した。
すごい!すごいっ!すごいよっ……!!
やっぱりツバサはすごいッ!!
興奮と感動でその場を跳び上がってしまいそうだった。
でも、それも束の間。
瞬空さんの言葉で、全ての熱が冷めていく……。
「何故、撃たない」
それは、決して拳銃を向けられている人が言える言葉でも、口調でもなかった。
ゆっくりとツバサの方に顔を向ける瞬空さん。その表情は、全く汗をかいていなければ、焦りの色も全くなくて……。口調と同じくらい、冷めていた。
「夢の配達人の掟、人を殺めてはならぬ、と言う事を気にしているのですかな?
ならば心配は無用です。急所に当てなければ1発や2発で、人は死にませぬよ?ツバサ様」
「ッ……!!」
その言葉に、ツバサはギリッと歯を食いしばるようにすると、拳銃を持つ手が、細やかに震え始める。
「拳銃が飛ばされる方向や距離を予測してワザと私の蹴りを受け、背後を取るまでは合格点でした。
……けれど。勝利条件を満たしておらぬ以上、残念ながら貴方様に白金バッジは譲れませぬな」
「!!ッーー……ガ、ハッ……!」
それは一瞬。
まるで瞬間移動したかのようにツバサの目の前に現れた瞬空さんは、左手で彼の喉を掴んで、軽々と持ち上げた。
「!!……っ、ツバサーーーーーッ!!!!!」
急展開に、彼の名前を叫ばずにはいられなかった。
さっきのドキドキとは違う、興奮から恐怖へ……。ドクンッドクンッと、嫌な心音が自分の中に響き渡る。
それでも、まだ勝利条件が満たされていない目の前では下剋上は続行される。