片翼を君にあげる②
可愛くない女ーー。
自分の一つ一つの行動、言葉を思い出してそう思った。
溜め息を吐いて秘書部屋に戻ろうと歩き進めていると、物陰に見慣れた背中を見付けた。
「……ジャナフ君。何をしていますの?」
「!っひあ……ッ。
え、っ……と、そのっ……たまたま、通りかかって……」
奇声を上げて振り返ったジャナフ君はとてもしどろもどろで、私を見て気不味そうに目を泳がせていた。その分かりやすい様子にピンッとくる。
「見ましたのね?」
「っえ!?……い、や……あのっ……」
「別にいいですわ。
声を上げていて、不注意だったのは私達。気にしないで下さいませ」
「っ、……」
「それよりも、言い合っていたとは言え全然気付きませんでしたわ。
ジャナフ君、気配を消すのがお上手ですね。本当、夢の配達人の素質があると思います」
話題を変えようと、そう言ってにっこりと微笑って見せた。けれど、ジャナフ君は浮かない表情で少し下に視線を向けている。
その先にあるのは、先程傷付いた左手。ハッとして右手で押さえると、撫でるようにしながら苦笑いを溢した。
「……痛い女、ですわよね」
「……」
「やっぱり、どれだけ見た目を可愛く着飾っても駄目ですわ。
内面が可愛くないから、すぐにそれが表に出てしまって……」
「ーーそんな事、ないですよっ」
てっきり呆れられていると思った。
でも、ジャナフ君はそう言うと私の手を優しく取って、水道まで連れて行くと傷口を軽くすすいでくれて、持っていたハンカチで応急処置をしてくれた。
けど、その結び方は微妙で……。私は思わず「ふふっ」と、声に出して笑ってしまう。
「!……ああっ、へ、ヘタクソですいませんっ」
「ふふっ、いえ。
……ありがとう、ございます」
面白い子だなぁ、と思った。
類は友を呼ぶ、とは言うけれど、ジャナフ君の優しさが暖かくて……。何だかツバサ君と一緒に居るような気分になり、自然と笑みが溢れた。
そして、彼は更に私を笑わせてくれる。
「……もっと自分を、大切にして下さい」
「!……え?」
「この間のツバサの下剋上の時だってノゾミさんは無茶して、いっぱい怪我してっ……。
どんなに強くても、貴女は女の子なんですから!」
「……。ジャナフ君……」
真剣な眼差しで見つめられて、力説されて、ほんの少しドキッとした。……それなのに、…………。