片翼を君にあげる②

緑の溢れる森の中。
暖かい陽の光が葉の隙間から射し込んできて気持ちいい。絶好の散歩日和だ。
河原に行ってその水で顔を洗っていると、俺に声を掛けながら小鳥が肩に止まる。

《ツバサ、おはよう》

「!……おはよう」

顔を上げて袖口で水滴を拭うと小鳥達が次々に集まって来て、頭や肩や腕に止まり俺に挨拶をしてくれた。

眼帯もアイレンズも外して、漆黒の瞳を解放したありのままの俺。人が溢れた場所では決してなれない姿で、俺は今過ごしている。

ここは、父方の曾祖父さんが所有していた山奥にある別荘。今散歩している場所も、所有地の一部だ。
曾祖父さんが亡くなってから全く使われていないが、俺の叔父にあたるアランが管理していて、数日前から暫く身を置かせてもらう事にした。

ただの休暇ではない。
自分の能力(ちから)を……。
いや、ありのままの自分を、受け入れる為に……。


《ね、ツバサうたって》
《うたってうたって》
《ツバサのこえ、キレイだからすき》

小鳥達がそう言いながら俺の周りを飛び交う。
別に自分が特別歌が上手いとは思ってないけど、裏表のない心の声でそう言われると応えてやりたいと思えた。

「いいよ。なら、一緒に歌おう?」

《さんせい〜》
《うたううたう〜》

この場所がもしも人が溢れる場所だったら、周りから見たら俺はかなりおかしな奴だろう。
でも、これが俺にとっては普通。普段(いつも)の方が、自分を偽って生きてるんだよな。

小鳥達と歌っていると、いつの間にかリスや兎や狸、猪や鹿、山に住む動物達が周りに集まってくる。
まるで飼い犬や飼い猫かのように、俺にはみんな甘えて擦り寄ってくる。

「……俺、おかしいのかな?」

嬉しい気持ちと、自分の知る人間とは違う自分に複雑な気持ちになり、思わずそう呟いた。

《おかしい?なにが?》
《ツバサはおかしくないよ》
《ツバサはキレイだよ》
《うん、キレイ!それにいいにおいがする〜》

《ね、ツバサ!ずっとここにいなよ〜》
《そうだよ。ずっと、わたしたちといっしょにいよ〜》

「……。ありがとう」

心から俺が居る事を喜んでくれて、傷付いた俺の心を癒やしてくれようとしていた。

でも、俺がここに来たのは甘える為じゃない。
前に進む為に、ここへ来たのだ。
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