片翼を君にあげる②
***

動物達に一旦別れを告げて、俺は別荘に戻った。
「すうっ」と深呼吸をして、気持ちを引き締めると玄関を潜り廊下を歩き、別荘内を探索する。
すると、突如ザワワッと頭の中に流れ込んでくる光景と声。

っ、……ここにも記憶の怨念があるのか。

人は住んでいない筈の別荘。
しかし、俺の頭の中には例のザワザワが聞こえてくる。
これは、今はもうここには居ないが、先住者であるある人の強い記憶の怨念が残っているからだ。そのある人とは、俺の曾祖父さんであるシャルマ。
まるでフラッシュバックのように彼の記憶が俺の頭の中に映像として流れ込んで来て、声も聞こえる。

両親に愛され幸せだと思っていたシャルマが、ある日父親が突然連れて来た愛人と、その子供の登場によって人生が狂っていく様。
本妻である母親と跡取り息子である自分を差し置いて、愛人とその間に生まれた娘を可愛がる父親が赦せなくて……。シャルマは、実の父親を手に掛け、愛人の娘を絶望へと突き落とした後に娼婦の館へと売り飛ばす。
そしてその中で目醒めた能力(ちから)、人を強制的に操る絶対服従spellbind(スペルバインド)で、その後も意に沿わない人物を縛り、支配して生きていた。

この別荘には至る所に、その記憶の怨念が散らばっている。
シャルマが亡くなったのは俺が生まれる少し前。それでも、18年以上は時が過ぎたと言うのに未だに怨念が残っているこの強さ。
それだけ、人が人を憎み、怨むという事は恐ろしい程の能力(ちから)になるという事だ。

「……俺も誰かを憎んだら、そんな能力(ちから)が目醒めたりするのか?」

想像しただけで身体の震えが止まらなくなってくる。
でも、先日の瞬空(シュンクウ)さんとの下剋上で、今の自分では全く歯が立たない事を俺は身をもって実感した。
瞬空(シュンクウ)さんは白金バッジに昇り詰めてからも常に成長し、今もその力を伸ばしている。俺がこのまま鍛錬を重ね、月日を重ねれば、いずれは超える事が出来るかも知れない。

けれど、時間がない。
来年の8月までに瞬空(シュンクウ)さんを超えるには、今のままでは時間が足りないんだ。

ならば、その足りない時間を何で埋めるかーー?

自らの能力(ちから)を受け入れて、自らの武器(切り札)にするしかない。
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