片翼を君にあげる②
『ご、ごめんね。驚いたでしょ?
可愛い弟なんだけど、もうヤンチャ過ぎて……』
「いや、全然構わないよ。確かに、ちょっと驚いたけど」
『レオね、ずっとツバサに会いたがってたの』
「俺に?」
『うん!だから、今度家に来たら遊んであげてくれる?』
「……ああ。勿論」
今度家に来たらーー……。
いつになるか、分からない。
もしもこのまま下剋上に躓き続けたら、とてもヴィンセント様が居るアッシュトゥーナ家の敷居を跨ぐ事なんて出来ない。
それでも「勿論」って答えたのは、そんな日が来たらいいなという希望の表れだった。
「……ね、レノア。何か、しゃべって?」
『えっ?な、何か……って?』
「何でもいいんだ。聴いてたい、お前の声」
自分でそう言いながら、無茶な注文だと思った。自分が逆の立場で、「何でもいいから話せ」って言われても、きっと困って上手く話す事なんて出来ないだろう。
……でも、…………。
『この間ね、孤児院で夏祭りしたの』
「……へぇ」
『結構、本格的に頑張ったんだよ。
子供達に浴衣着せてあげてね、色んな屋台作って、一緒に遊んだの』
「そっか」
『綺麗な水風船があって、取りたかったんだけどすぐ紙紐が切れて取れなかった〜』
「残念だな」
『うん、残念!悔しかった〜!
……って、子供達より私が楽しんじゃってる感じだよね?』
「実際そうなんだろ?」
『えぇ〜っ?酷い、ちゃんと仕事もしたもん!』
「あははっ、どうだか」
たいした相槌も打てない俺に、レノアは楽しそうに話してくれた。
そして、一呼吸置いて、言った。
『……。
ツバサが居たらな〜って、思ったよ』
「……」
『楽しかったけど、楽しい事がある度にそう思うの』
「……」
『一緒にやりたい事、たくさんあるんだ!』
「……っ」
弾む声が嬉しくて、ほんの少し痛かった。まるで、細い針で心を刺されたみたいな……。
そしたら、その小さな隙間から、思わず本音が漏れた。