片翼を君にあげる②

「貴方の能力(ちから)は借りずに、自分で自分の能力(ちから)を引き出せるように、生きてみます」

《……時間が掛かるよ?
君は能力(ちから)に目覚めたのは早かったけど、これまでずっと使わずに生きて来た。熟練度、と言う点ではシャルマ以下だ》

心を直接飛ばして語り掛けてくる天使の言葉に、嘘偽りはない。100%真実だ。それでも……。

「自分の能力(ちから)ではなく、自分の力で、全力で生きたいんです」

《天使ではなく、人として生きたい、か……。後悔するよ?》

そう言うと天使が、先程傷付いた手を俺に見せる。確かに弾かれて傷付いていた筈だった。
けれど、その傷はすでに消えている。治って、いた。
どうやら天使の能力(ちから)の中には他人の傷を治す治癒能力だけでなく、自らを治す自己治癒(じこちゆ)能力もあるようだ。
一瞬驚いた。が、これまで天使に会って驚かされてきた事に比べたら、大した事ではない。

「……それでも。
貴方と、契約はしません。失礼します」

俺は天使に深くお辞儀をしてから、背を向けた。
酷い事を言われたようにも思えるが、天使が話してくれた事は紛れもない真実で、知るべきであり、受け止めなくてはいけない事だった。
だから、教えてくれた、その事に関しては、感謝したかったんだ。

そして、天使は意外にも契約を断った俺に普通だった。強引に引き止める事も、それ以上無理に口説く事もして来なかった。
……けれど、去り際に呟くように言った。

《未来を()先見(さきみ)能力(ちから)、君はまだ目覚めていないようだね。
私には、この未来(さき)がすでに視えている。君はいずれ、今日契約を断った事を必ず後悔するよ》

俺がその言葉の意味を理解するのは、数ヶ月後ーー。

でも、この時の俺は……。
この選択が正しいと思って、その場を後にしてしまったんだ。

灰色の書庫の扉を開け、潜り……。
自分の世界へと、戻った。

天使が、俺の背中を見てニヤリと笑っているとは、知らずに……。

……
…………。
< 164 / 262 >

この作品をシェア

pagetop