片翼を君にあげる②
***

馬車を走らせる事、約1時間ーー。

ついに、蓮華国に到着した。
正面の大きな木で出来た門の前で馬車から降り、そこに立っていた門番にツバサが話をすると、ゆっくりと重い扉が開かれて中に通される。

「ーーッ!!……っ、す、ごいっ!」

思わず声が出てしまった。
周りが高い塀で囲まれており外からでは全く見えなかったが、そこには大きな集落が広がっていた。
中央に神殿と言った感じの立派な建物があり、その周りの敷地内には住民が住んでいる家が点々といくつも建てられている。
畑や田んぼ、牛や鶏などの家畜もいて……。ここに来るまでの道のりからは、とても想像出来ない豊かな暮らしがあるようだった。

そして何よりすごいのが、神殿の周りを取り囲む池。そこには無数の(ハス)の花が咲いている。
蓮の花が本来咲くのは初夏から8月位までで、しかも見頃は午前中。今は秋、そして時刻は午後なのに……。
それでも、今こんなにも満開に咲き続けているのはさすがは"蓮華国"と言うその名の通り、と言うべきか、はたまた、瞬空(シュンクウ)さんが主と言っていた例の巫女様の能力(ちから)なのだろうか?


「当主にお会い頂く前に、まずはこの国の衣装に着替えて頂いてもよろしいでしょうか?」

案内係の人にそう言われて、ボク達は一旦神殿の側にある御屋敷に寄る事になった。
一応今回はボクもツバサに(なら)ってスーツ、って言うのを着て来たんだけど、それでもダメみたい。

着替える場所まで行くと、「どうやって着るの?」と、不慣れなボクに女官さん達が手伝ってくれた。
一方のツバサは、さすが、と言うべきか、女官さん達のお手伝いを丁重に断った後、テキパキと自分1人で用意された服に着替えていく。

やっぱり、すごいなーー……。

そう思ったボクは、次からは自分で着られるように頑張ろう、と決意して、女官さんに習いながら、少し時間はかかってしまったが身支度を整えた。

ーーうんっ!
これ、なかなか良い感じなんじゃない?

着替え終わり、近くに置いてあった全身鏡で自分の姿を確認する。
瞬空(シュンクウ)さんが着てたみたいな、武術用に動き易く作られた和服のような民族衣装。深い青色……藍色って言うのかな?
用意された物だが、この色は自分にとても似合っている気がした。
< 168 / 262 >

この作品をシェア

pagetop