片翼を君にあげる②
***

神殿の中はシンプルな外観からは想像出来ない程、入り組んだ造りになっていた。
ボク達は案内係さんに真っ直ぐ謁見(えっけん)の間に連れて来てもらったけど、その途中左右にはいくつもの扉や通路があった。おそらく不審者の侵入や敵国が攻めて来た際の対処だろう。

謁見の間には入り口、そして中央の通路の左右に衛兵がずらりと並んでおり、その先にある高い石階段の上に当主が座っている玉座があった。
そこに座っている人こそ、巫女様だ。

けれど、ボク達は声を掛けられるとまで顔を高く上げてはいけない。
案内された階段下まで行くと、ボクはツバサに倣って跪いたまま暫く顔を伏せていた。

巫女様。
一体、どんな人だろう?

ドキドキしながら声が掛かるのを待った。
すると、想像していたよりもずっと若い……。いや、どちらかと言うと、子供っぽい声が聞こえる。

「顔を上げてよいぞ」

その声に、ゆっくり顔を上げた。
遠い見上げた先に居たのは、声で感じた印象とあまり変わらない。やはり、ボクよりも若い女の子だった。
長い黒髪に瞳。短い眉毛で、ニッと微笑んだ際に口端から見える八重歯が印象的だ。朱色と紫を基調とした民族衣装を身に纏った、小柄な女の子。

この子が本当に、当主ーー?

アメフラシ、と言う天候を操る不思議な能力(ちから)を持つ方と聞いていたけど、正直疑ってしまう。
そして彼女が、見た目通りで行動も幼いから尚更だ。
普通、身分が高い人は自分から下級の者に歩み寄ったりしないと思う。
それなのに巫女様は玉座から立ち上がると、履いている高い下駄をカコンカコンと鳴らしながら衛兵が止めるのも聞かずに「よいのじゃ!」と言いながら階段を降ってくる。そして、ツバサの前へやって来た上に、あろう事か自ら先に名乗る。

「よく来たな!
わしはこの蓮華国現当主、蓮葉(レンハ)じゃ!」

「お目にかかれて光栄です。
私は夢の配達人、銀バッジの……」

「ツバサ、じゃろう?そんなの瞬空(シュンクウ)からの(ふみ)ですでに知っておるわ!堅苦しいのはよいよい!
のう、それよりもお主、ちょっと立って見せろ」

ツバサの挨拶を遮って、巫女様……。いや、蓮葉(レンハ)様は立ってみろ、と命じた。
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