片翼を君にあげる②
横顔を見つめると、彼女は冷静な表情を浮かべていたが、瞳には微かに悲しみが漏れていた。
でも、俺の視線に気付くと蓮葉様はニコッと微笑って、突然ガバッと抱き付いてくる。そして、意地悪そうな笑みをレノアに向けながら言った。
「悪いのぅ、レノアーノ様。
ご覧の通り、この男は今わしの護衛隊長じゃ。気安く話かける事も、気安く近付く事もせんでもらおうか」
一見、意地悪に思える言葉。
女神と讃えられ、たくさんの人に愛されているレノアに対する嫉妬の言葉や態度に思われる。
現に、そんな蓮葉様を見て村人はまたザワつき彼女への悪口を吐き始めた。
……。
けど、俺には痛いくらい分かってしまう。
これが孤独と恐怖を抱えた蓮葉様の、精一杯の強がりである事が……、……。
だから俺は、彼女の手を放す事が出来ない。
今の彼女の気持ちを1番理解でき、寄り添い護ってやれるのは、自分しかいないと思ったから……。
「ーー……レノアーノ様。
蓮葉様が仰せの通り、現在私はアメフラシの儀式を恙無く行う為の大事な任務中にございます。どうぞ、貴女様もご自分の活動に集中下さい。
……、……失礼致します」
「!っ、え……えっ?ツ、ツバサ?!」
自分に視線を向けてくれているレノアにそう告げて頭を下げると、また誰よりも慌てたのはジャナフ。彼は俺とレノアを交互に見て何か言いた気だったが、俺は「さ、蓮葉様。参りましょう」と彼女の手を取り、村長の家を目指して足を進めた。
その間ずっと、村人が口にするアメフラシへの悪口は耐える事がなかった。
……
…………。