片翼を君にあげる②

「……ジャナフ。
食事の支度をしよう。手伝ってくれるか?」

「あ、うん。もちろん!」

ずっと背後に付いていてくれたジャナフに声を掛けて、俺はテントを出ると馬車の積荷を漁った。
日持ちする根菜を中心にした野菜、干し肉、米に、塩などの調味料。更に調理器具や火を起こす道具。
父さんが良くキャンプに連れて行ってくれたから、その一式には幼い頃から使う事に慣れていて有り難い。

……いや。
もしかしたら、父さんは分かっていたのかも知れない。幼い頃の遊びの一環は、全て夢の配達人に繋がる事を……、……。


「ーー何やら、楽しそうじゃの?」

「!……蓮葉(レンハ)様?」

昔の事を思い出しながら料理の準備をしていると、いつの間にかテントから出て来ていた蓮葉(レンハ)様が背後から覗き込みながら言った。
そして、腕捲りをしながらニッと微笑えむ。

「わしもやる!」

「え?」

「わしも手伝ってやる、と言うておるのじゃ!」

「えぇ〜!?あ、危ないですよ〜!
さすがにそれはボク達に貸して下さ〜い!!」

ナイフを手に持ち楽しそうにする彼女を見て、ジャナフはタラタラと冷や汗を流しながら慌てた。
しかし、蓮葉(レンハ)様はナイフを返さず「ベッ」と舌を出して笑う。

「嫌じゃ!瞬空(シュンクウ)はいっつも何もさせてくれぬからの。
わしの儀式の為に皆付いて来てくれておるのに、その当人であるわしが1人だけ休んでおるのは、違うと思わぬか?」

「!……それ、は…………」

無邪気だった彼女にそう言われて、ジャナフはハッとして言葉を返せずにいた。

美しい音が響いて、俺の心にも浸透する。

「わしは皆と対等で居たい。
わしと共に居てくれる者と、同じ時間を共有したいのじゃ!」

そう言って、最高の笑顔を向けられれば、もう俺達は彼女に逆らえなかった。そして……。

「ツバサ。そなたはそなたで良い」

「!……え?」

「今わしの護衛隊長はそなたなのだ。
瞬空(シュンクウ)とは違うやり方で、わしを護ってくれ」

「!ーー……ッ」

完全に見透かされていた。

この村でのアメフラシに対する状況を目の当たりにして、"俺じゃなくて瞬空(シュンクウ)さんなら、もっと上手く蓮葉(レンハ)様を護れたのでは?"と言う気持ちをーー……。
< 191 / 262 >

この作品をシェア

pagetop