片翼を君にあげる②
ツバサに会えてすごく嬉しそうで、それなのに……。
『レノアーノ様。
蓮葉様が仰せの通り、現在私はアメフラシの儀式を恙無く行う為の大事な任務中にございます。どうぞ、貴女様もご自分の活動に集中下さい。
……、……失礼致します』
ツバサは、少しも嬉しそうな表情をする事なくそう言った。
その時のレノアーノ様の表情が、目に焼き付いて離れない。寂しそう、だったんだ。
そりゃ、そうだよね。
好きな人にあんな態度されたら、ボクだって寂しくて、悲しい。すごく、分かるんだ。
ツバサは、レノアーノ様に会えて嬉しくなかったのかなーー?
以前彼の口からレノアーノ様の話を聞いた際は、絶対に敵わないと思う程に彼女への想いが溢れていた。
でも、今はとても想い合っている、いわゆる恋人同士には見えない。
それだけ"今は任務"だと言う気持ちが強い、プロ意識ってやつなのかな?
そんな事を考えながらテントの外で荷物を片付けていると……。
「あの、少しよろしいですか?」
「!……レ、レノアーノ様っ?!」
ちょうど彼女の事を考えていたボクは、驚いて大袈裟な位に大きな声を上げてしまった。
声を掛けられて視線を向けた先に居たのはレノアーノ様。と、侍女さんらしき金髪に碧眼の女性。
「あわわっ」と慌てていると、レノアーノ様はまたボクの反応を見て「くすくすっ」と楽しそうに微笑ってくれる。その表情は綺麗だけど、どこか少女のように可愛らしくてすごく好感が持てるんだ。
緊張でドキドキする胸を抑えて、ボクは口を開く。
「っ……ツバサに、会いに来たんですか?」
「あ、いえ、違うんです。蓮葉様にお会いしたくて」
「蓮葉様に?」
「はい、このようなテントでは女性は何かと御不自由がありましょう。レノアーノ様はご自分が宿泊されておられます貸家に、蓮葉様をお誘いに来られたのです」
ボクの質問に詳しく答えてくれたのは侍女さん。
確かに。
季節的に真夜中は冷えるし、ここには毛布があるだけでベッドも敷き布団もない。
一応寝る際にはテントの中に蓮葉様一人にして、ボクらは交代で見張りをしながら馬車で休む、って話になったけど……。レノアーノ様と一緒に貸家で休まれる方が、蓮葉様にとって絶対に良いと思った。