片翼を君にあげる②
殴られて当たり前だと思った。
いや、殴って欲しかったのかも知れない。
真顔で見上げるレノアを、俺もしっかり見つめて覚悟を決めていた。
……でも。
レノアはそんな事をするよりも、もっともっと深く俺の心に響かせるんだ。
「ーーごめんなさい」
っーー…………え、っ?
目が醒めるように、ハッと、した。
美しい音が聞こえたと思ったら、目の前の彼女は頭を下げていた。
そして、ゆっくり身を起こすと再び俺を見つめる。その、澄んだ瞳に、心がズキッと痛む。
「確かに、ツバサの言う通り。
私は自分の気持ちばかり考えて、村の人達や蓮葉様への考えや配慮が足りていなかったわ。
自己満足、そう取られても仕方のない行動よね」
「っ……」
「駄目ね。まだまだ、だわ、私」
そう言って、レノアは失敗を怒られて反省する子供みたいに微笑った。
その笑顔に、今更ながら後悔と言う名の痛みがズキズキと俺の胸を締め付ける。
けど、本当に今更、だ。
どんなに後悔しても、言ってしまった言葉は消せない。
正気に戻って罪悪感に襲われながらも、俺にはもう弁解する事も出来なかった。
何も言えないまま視線を目を泳がせるように逸らすと、またレノアが言葉を続けた。
「戻るわね。
でも、もし何か困った事があったらいつでも声を掛けて。……ねっ?」
最後まで優しい彼女。
手を伸ばせば触れられる。呼び止められる距離。でも、俺には何も出来ない。
ただ黙って、彼女の背中を見送ろうとしていた。その時……。
「ーー待て」
!ーー……え?
俺のすぐ隣から、声がした。
背を向け去ろうとしていたレノアを、引き止めたのは蓮葉。
「世話になる」
「!……え?」
「レノアーノ様。そなたのお言葉に甘えて、ご一緒させて頂いてもよろしいかの?」
蓮葉の言葉に、呼び止められたレノアも驚いた表情を浮かべている。
「あ、は、はい!勿論です。
……けど、よろしいのですか?」
俺の顔色を伺いながら問い掛けるレノア。
すると蓮葉は俺の傍から離れ、レノアの腕にギュッと抱き着きながら言った。