片翼を君にあげる②

「わしが良いと言うておるのじゃ、構わん。
のう?ツバサ、わしがこの者と一緒が良いと言うておるのじゃ。良いじゃろう?」

「っ、……は、はい」

さっきまで無邪気に纏わり付いていた蓮葉(レンハ)が主の雰囲気を出すと、自然に俺も護衛隊長として返事をしていた。
俺の了承を得た蓮葉(レンハ)はニッと笑い、レノアをぐいぐい引っ張って歩き出す。

「ならば、行こうか。レノアーノ様。
……あ。ツバサ、ジャナフ、二人は良い。護衛には他の衛兵を付けさせるから、先に休憩せよ」

「!……っ、しかし…………」

「聞こえなんだのか?
お前は少し休め、気を張り過ぎじゃ」

「っ……」

後を付いて行こうとした俺に、顔だけ振り向いた蓮葉(レンハ)が言った。

見抜いているようだった。
余裕のない、今の俺をーー……。

……
…………。

返す言葉も見付からなくて、俺は黙ってレノアと蓮葉(レンハ)を見送るしか出来なかった。

レノアのお付きの女執事であるレベッカさんは優秀だ。彼女が付いていてくれるなら、安心だろうーー。

自分にそう言い聞かせて、俺は少し頭を冷やそうと歩き出した。独りに、なりたかった。
でも、そんな俺を止めるようにジャナフが目の前に立ち(はばか)る。
今は放っておいて欲しかったが、平然を装って口を開く。

「……。なに?」

「なに、って……。
ツバサ、あれは……。あの言葉は、いくら何でも酷いよっ」

ジャナフの瞳が、悲しそうに揺れていた。

「そりゃ、ツバサとレノアーノ様は幼馴染みで……親しい、かも、知れないけど。っ……でも」

「っ……」

何で、そんな瞳でみるんだよっ……。
そんな瞳で、見るなよっ。

ジャナフの瞳に胸がまたズキズキと痛み出す。

分かってる。
悪いのは、全部俺だ。

自分に自信がなくて、弱虫で、不安で……。
そんな震えた心が、嫌な物しか映さなくて、悪い考えしか浮かばない。

分かっている、から。
自覚しているからこそ、上手く気持ちを処理出来ない自分が嫌になる。

「ツバサ、最近おかしいよ?何か、あったの?」

「!っ……」

"サイキンオカシイヨ"ーー。

その言葉が、異様に響いて心が震えた。
ジャナフが心から心配してくれて言ってくれた一言にでさえ、過剰に反応する俺の心。
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