片翼を君にあげる②
『ジャナフ』って、呼ばれるのが嬉しかった。
ツバサに呼んでもらえると、まるで子供の頃に母さんに呼ばれた時みたいに胸が弾んだ。
ボクを見て、微笑ってくれる笑顔が大好きだった。
少し困ったみたいに、眉毛を下げて控えめに笑うツバサの笑顔を見ると、胸がホワッと暖かくなるんだ。
いつの間にか一緒に居て、隣に居るのが当たり前で……忘れてた。
ツバサはボクにだけじゃなくて、みんなに優しいんだ。
あの声も、笑顔も、ボクだけのものじゃない。
ツバサはボクにとって特別だけど、ツバサにとってボクは特別じゃないんだ。
「っ、はは……参っちゃうな」
走っていた速度を緩めて、両手で顔を覆うとグッと涙を堪えて天を仰いだ。
独りぼっちな事にも、名前を呼ばれない事にも、慣れていた筈だった。
それなのに、こんなに胸が苦しい程。痛くなる程、君を好きになっていたなんて……、……。
冷たい夜風が、頬を撫でる。
「……っ、いけない。次、ボクが見張り当番だ」
グスッ、と鼻をすすって軽く深呼吸した。
今のボクが出来るのは、ツバサの足を引っ張らない事だけだーー。
もう一度、そう自分に言い聞かせる。
そして、気持ちを落ち着けると、ボクは見張り番の交代をする為にレノアーノ様と蓮葉様が寝泊まりしている小屋へ向かった。
……
…………。